欧米文化と2000年代の若者

 

バブル崩壊後と伝説化する洋楽文化、教養としての欧米文化

日本ではバブルが崩壊して平成になったし、欧米では80年代のようなにぎやかな文化は減っていった。その代わり、落ち着いてよりシニカルなグランジの音楽とファッション、パンクロックやポップ・ロック、R&Bが日本でも流行した。これまでの有名な洋楽・洋画の中に「ロックの殿堂」のように伝説化した人々やコンテンツが数多くあって、世代を超えてもリスペクトの対象となっていた。

2000年代周辺では兼ねてからの日本の洋楽的音楽シーンや、洋楽についての最低限の常識があった。そして90年代後半からはライブハウスや大規模フェスといった文化がカルチャーとして大きな存在感があった。R&Bポップロックが流行した。2000年代の若者にとっても、欧米や洋楽的なカルチャーというのは非常にでかい存在だった。

90年代の欧米ではブラックカルチャーであるR&Bが流行していて、落ち着いた雰囲気で大人っぽい音楽は若者を魅了した。90年代後半からR&Bのスタイルを日本に積極的に取り入れた人といえば、安室奈美恵宇多田ヒカルがいる。安室ちゃんのファッションは若い女性をとりこにして、NYからやってきた宇多田ヒカルの本場の音楽性は日本人に衝撃を与えた。また、グリーン・デイなどから始まるアメリカンなポップロック・パンクも大きな存在感があって、PUFFYやハイスタや「青春パンク」は若者にとって青春の音楽となった。LOVE PSYCHEDELICOのように洋楽っぽい音楽、英語を盛んに取り入れた音楽もある。t.A.T.uスパイス・ガールズジャパレゲのブームもあったしヴィジュアル系ブームもあった。

 

2000年代の若者とポップカルチャー

2000年代世代(おおむね80年代90年代・平成初期に生まれた世代)ならば、洋楽っぽい文化や欧米のカルチャーにかなり親しみがあるはずだ。音楽だけじゃない。幼少期にはカートゥーンネットワークのアニメーションに親しんだ記憶があると思う。ジョニーブラボーとかフォスターズホームとかパワーパフガールズとかカーレッジくん(Courage the Cowardly Dog)とか。ビデオゲームでは『バンジョーとカズーイ』といった任天堂64のレア社のシュールなCGのゲームをやったことがあるはずだ。『ハリーポッター』や『マトリックス』に親しんできた。幼い頃からディズニーのアニメも観てきただろうし、きっとディズニーランドに連れて行ったもらったことがあるはずで、ディズニーシーもできたときには行ったことがあっただろう。

小さい頃から欧米のポップなカルチャーに触れてきた2000年代世代の子は中高生になると本格的に洋楽や洋画や洋ゲーに親しむようになった。男子ならリンキン・パークマイ・ケミカル・ロマンスがきっと大好きだっただろうし、『8 Miles』からエミネムをかっけえと思った。女子ならテイラー・スウィフトレディー・ガガに憧れ、『トワイライト』などを観たことがあるはずだ。

www.youtube.com

2000年代の若者、中高生ならロックが最高の音楽だという感覚がある。アヴリル・ラヴィーンは日本でも相当インパクトがあって、彼女のポップなキュートさに音楽センスに魅了されたのはみな同じである。日本でのバンドブームは昔からあったものの、パンク的なファッションで爽快感のポップパンクが好まれたのは2000年代特有だ。それだから、パンクバンドを結成して学園祭のステージで披露するというのは中高生なら誰もが憧れることであった。

日本国内に関して、2000年代の邦楽シーンを振り返ってみても洋楽を感じる音楽も多かった。モンパチなど青春パンクは言うまでもなく、青山テルマSCANDALは非常に洋楽的だった。世界でも大ヒットした漫画・アニメの『NARUTO』だって主題歌が青春パンクを使っていた。今でもオシャレな店でアメリカのティーン受けしそうな洋楽が流れるのも、学園祭でバンドが演奏するのも、スポーツ特集番組で爽快感のある洋楽が流れるのも、洋楽的な音楽の雰囲気が良いという感覚があるからだ。

また、2000年代ではネット社会がかなり普及して、オタクな人でもwindowsマッキントッシュの技術に感動した。さらにはYouTubeGoogleが登場したことで世界は大きく広がり、そこで海外の知識を得ることも容易になった。

 

2010年代になって欧米カルチャーはより身近に

2010年代になってスマートフォンSNSが普及すると、欧米はより身近になった。第一にiPhoneApple社の最先端製品であり、SNStwitterからFacebookInstagramとやはりアメリカに由来するものだった。そういったSNSは日常の感動などをシェアするという欧米的な用途があって、すぐさま日本の先進的な若者たちに好まれるようになった。スターバックスコストコの日本展開も進んだ。だからイケイケな感じの女の子が海外旅行・留学に行った時の様子をインフルエンサー的ファッションで発信して、それを世界のユーザーたちを楽しむ風景があった。最新の洋楽もYouTubeで高画質で見ることができるようになった。

www.youtube.com

欧米的なもので育った2000年代世代なら、洋楽的なものや欧米のツールは親しみのある文化として存在していた。2010年代なかばには英語圏の音楽はエド・シーランの曲など名曲が次々生まれてそれをみんな聴いたし、アウル・シティとカーリー・レイ・ジェプセンの『グッド・タイム』が流れたらノリノリで歌い出すものだ。

 

日本的なしがらみからの脱却

若者・若い女性が海外に魅力を感じて特に欧米に憧れるのは、日本的なしがらみからの解放にあった。

2000年代、少なくとも2010年代半ばまでは日本はまだまだ古典的な価値観や旧態依然の体制が主流だった。道路の開通式に何が偉いのかよくわからないスーツや着物の爺さんさんたちがひな壇に集まって升酒を飲み交わす光景とか、シャッター商店街の中で流れる演歌と相撲中継みたいな閉塞感は普通だった。それだけならまだ害はないものだが、中高年たちによる今で言うところのパワハラやセクハラはごく当たり前に存在していて、「女子供は大人・親に殴られることに感謝しないといけない」という風な考えが平然とまかり通っていた。外国人や肌の色が違う人は差別用語で呼ばれて蔑まれる風潮がまだあった。

日本の古い感覚、閉塞的な文化、そういったものにいよいよ2000年代世代の若者は嫌気が差していた。そうなると海外の文化はより魅力的に見えるものであり、事実として欧米の文化・技術・思想は日本の何十歩も先を行っていたので憧れるのは自然なことだったのだ。これは戦前からのことだが、日本人の中に欧米が先進地域である意識というのは根強かった。ポップなカルチャーだけはなく西洋クラシック音楽、科学技術、倫理法律の概念、社会の制度、スポーツ、欧米のあらゆる物事が日本には存在しなかった先進的で見習うべき発明だった。それだから主に北米に語学留学に行ったり、オセアニアにワーキングホリデーに行ったりするのがステイタスだったわけだし、逆に帰国子女は羨望のまなざしで見られた。欧米の有名人が来日すれば、あの有名な人が来たと話題になった。そうした感覚が他の世代より強いのが2000年代世代である。

欧米でも差別などがまかり通る時代はあったわけだが、昔からずっと反対の声が挙がっては改善され続けてきた。そして欧米には日本の土着的な価値観がもとから存在しない。異なる人種・女性・同性愛者・非年功序列・個を重んじる文化、が尊重される文化圏があって、日本の若者や女性にとっては日本的なしがらみから最も遠いものだったのだ。2000年代世代にとってはオバマ大統領の就任も大きな影響を与えた。

そして風刺・批判的なパンクやラップはもちろんなのだが、疾走感があって心揺さぶるサウンドのポップパンクや『Party In the USA』的な音楽やブロードウェイミュージカルやディズニー映画に魅了されるのはそこに夢と開放感があるからだ。EDMのフェスやクラブのように友達と楽しむとかパーティー文化はやはり閉塞感とは対照的であった。そうしたものは日本的しがらみを忘れることができるもので、欧米文化に親しんできた2000年代の若者はかなり進んでいたのだ。