ミーム至上主義の2014年度を繰り返すな

2010年代で日本のギスギス感が最高潮に達したのが2014年度だ。ネットは何を検索しても悪質な2chまとめサイトが引っ掛かり、過激なネトウヨがそこら中にいてヘイトスピーチ三昧、テレビをつければ日本スゴイ番組とか月曜から夜更かしとか学歴バトルとか非常識な女性を責めまくるといった番組しかなかった。そして、若者たちはそうしたノリに感化されて右傾化したり「マジキチでクッソワロタwwww」などと口にするような残念な風になっていた。

そんな2014年度は文化的にも非常に低俗であって、それが「ミーム」である。ミーム(meme)とは主にネット上で使われる概念であり、あるコミュニティの中で共有されている決まり切った画像や文章のことであり、わかりやすくいえばお約束の定番ネタがそれにあたる。国外のネットカルチャーにおいてミームはかなり重要であり、コミュニケーションに欠かせないものになっている。日本では、ミームの概念が薄いものの、ネット民ならだれもが知っている面白画像を貼って返信したり、コピペや決まった言い回しが存在する。それがミームだ。

ミームの最大の問題点が、その閉鎖性・内向性にある。狭いコミュニティのいわば内輪ノリであり、よそものを受け付けない隠語的性質があるのだ。だからミームはもっぱら内向的なヲタクたちの間で好まれ、いくら海外といってもミームを使っている人間が閉鎖的なナードなのは間違いない。加えて、ミームには物事を茶化したり中傷の手段となる場合が多々あり、ミーム自体が元ネタにされた物事を貶めるコンテンツだったり、ミームを悪意を持って使うことで他人を不快にすることができる。

 

ネットにはびこるミームと「キセキの世代」

dic.nicovideo.jp

覚えている人もいるだろう、2014年といえば世間を騒がせた面々がいた。その研究を疑われつつも「STAP細胞は存在する」と主張した理化学研究所の研究員、耳が聞こえないふりをして作曲活動することで注目を集めたものの実はゴーストライターがいた自称作曲家、政務活動費を私的に使用したことを追及されると会見で号泣して絶叫した兵庫県議員。彼らは確かに滑稽で、その話題性では面白がってしまうこともあるかもしれないが、別に彼らは人を面白がらせるつもりは一切なかった。

ネットでは当然彼らのことをネタにして楽しむ光景があり、画像を合成したりモノマネしたりであふれかえった。そのほかに2014年に話題になるか炎上した者を総称して「キセキの世代」と呼んではしゃぐ様子、これにはくらくらした。ネットではもともと炎上した人やネタにできそうな人を玩具にして愚弄する悪ノリがあり、さらにはヲタク的なものとも相まってより偏執的で俗な風に扱われる。そうなるとそれはもうミームであり、痛々しく閉鎖的な内輪ノリの完成なのだ。「キセキの世代」もそんなミームの集合体であった。

 

表社会をむしばんだミーム至上主義

ネットだけのミームならそこにとどめておけばいいかもしれない。ところが、この時代はネット以外の世間までもがミーム至上主義に陥っていた。そしてそれらはネット由来だった。

代表格としてマツコ・デラックスの存在があり、90年代の陰湿なサブカルノリと2chの悪意あるノリをそのままメディアに持ち込み、日テレの月曜から夜更かしはマツコを司会に構えて地域対立煽りやあらゆるものを馬鹿にする図式ができあがった。この番組は当然ネット民に大うけで、さらにスマホからネットに毒された若者がマツコを神格化するザマだった。世間的にマツコの言うことは絶対だという風潮になってしまったのだ。「グンマ―」「大都会岡山」「修羅の国福岡」「ダ埼玉」みたいなネットのつまらない地域対立ミームを地でやる月曜から夜更かしは完全にミーム番組であるし、マツコ自体がミームになっていたのである。

2010年代前半は日本のメジャー音楽界も地獄のようで、秋元康のアイドルか地下アイドル、ネット発の歌い手や千本桜などボカロばかりがでかい面をしていた。これらもサブカルのいわばミームであり、キモヲタの内輪ノリを見せられているようで、世界のトレンドとどんどん離れていくのを感じた。地方行政ではゆるキャラが次々採用されて萌えキャラがゴリ押しされて役人たちが恋するフォーチュンクッキーを踊って、その様は到底まともには見えず、90年代サブカルヲッサンとネットミームに支配された感がすさまじかった。ふなっしーみたいな悪ノリのゆるキャラがウケたりもそうだ。2014年といえば艦これと妖怪ウォッチでネットも世の中も埋め尽くされた時であったが、それらも日本でしか通用しない内向的な内輪ノリとミーム的な要素が強かった。

 

悪意あるミームと過激化

ミームには他者をおとしめる要素があること、それは上記で述べたとおりだ。ミーム自体が閉鎖的なコミュニティの内輪ノリなので、サブカルやオタク的なものでとどまっていればよくてもイジメや差別とも十分親和性が高い。「キセキの世代」自体も、いくらその人が不正なことをして滑稽でも執拗に嘲笑や性のネタにしている時点でイジメと変わらない。月曜から夜更かしについても埼玉県など特定の地域や街頭の変わった人を度を越えてイジることは同様に名誉を傷つける行為であろう。異常だったのはこうした悪意あるミームにネット外の世間すらそれに便乗していたことだ。 

狭いコミュニティだと内輪ノリが過ぎて、調子に乗る者も出てくる。ヲタクが不謹慎なことをして注目を浴びようとするのはよくあることで、その悪ノリが過激化したのも2014年度だった。アフリカで発生したエボラ出血熱萌え擬人化したエボラちゃん、テロリストに人質にされた日本人でコラ画像(クソコラ)を作ったり、最悪だった。恥ずかしいのは、ミームを楽しんでいる方は自分たちが最強で一番面白いと思っていることだ。

さらにミームは政治思想的なもの、ネトウヨとも親和性が高い。2014年は日本の右傾化がもっとも深刻だった頃で、その震源であるネットなんて見るに堪えないヘイトスピーチであふれかえっていた。ネトウヨたちの間では韓国人を侮辱するための画像(本物かどうか怪しいテレビのインタビューなど)がしょっちゅう貼られ、左派系議員を冷笑するための画像もよく見た。また「トンスル」や「コンス」など、日本人はほとんど知らないような韓国の風習などをネトウヨは必ずヘイトの時に使い、それらも結局はネトウヨの中で誇大化した一種のミームだった。ほかにも、未成年者による不祥事が起きると、ネットの悪意あるユーザーやネトウヨが憶測で物事を結び付けたり、事件を過剰にセンセーショナル化してミーム化するのも見られた。 

 

2014年度の日本のミーム主義を招いたものは、90年代のサブカル至上主義とヲタクの悪ノリで、それに加えて経済悪化による内向的なビジネスと消費にあると言える。これらが日本を低俗化させて国際社会から孤立させ、多くの人を傷付けた。その罪は大きく、日本人は2014年度を日本文化最初の谷として記憶していかないといけない。

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